情報の駅マガジン:伝統にモダンを融合

伝統にモダンを融合 ― 「柊家 新館」HIIRAGIYA SHINKAN

建築家 道田 淳さん インタビュー


優秀店舗コンペティション BEST STORE OF THE YEAR 第15回で最優秀賞の栄冠に輝いた京都の老舗旅館「柊家 新館」。それを手がけた気鋭の建築家・道田淳さんは、伝統にモダンを融合させた空間を創出した。

 

  柊家 新館

文政元年(1818)より京都で旅館業を営む老舗旅館「柊家」の新館。
創業より続く古き良き面影はそのままに、現代社会の様々なニーズに対応する快適な内部空間に、伝統をベースに革新のアクセントを加え、時代を経ても、なお価値を増すような、様々な意匠や試みに溢れた建築物を目指す。


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広間(写真上)では目隠し塀より伸びる伝統的な「雪吊り」を模した構造体により上階を支えることで、柱等の遮蔽物が一切無く、三方にパノラマで展開する景色が可能となっている。


 
道田 淳さん ご紹介 MICHIDA JUN

有限会社エイト・エフェクト一級建築士事務所 代表
1968年 京都生まれ。芝浦工業大学大学院修士課程建築工学科卒。1995年より滋賀・MIHO MUSEUMのプロジェクトに参加。2001年より「柊家 新館」に着手(2006年に完成)。同施設はBEST STORE OF THE YEAR第15回 最優秀賞を受賞。




インタビュー映像1「設計コンセプトなど」(1分12秒 wmv)
 
インタビュー映像2「情熱〜今後の目標まで」(3分47秒 wmv)
 
 
 

Q:「柊家 新館」を手がけるキッカケは?

 
200704michidaface2.jpg 「柊家旅館」は京都にある有名な老舗旅館です。昔より文豪から国内・海外の著名人まで、そうそうたる顔ぶれの方が泊まられたところです。生まれが京都ですし、名前は知ってはいましたが、そういうところに営業をかけようなんて思ったこともありませんでした。

キッカケは偶然で、柊家さんが元々持たれていた新館計画を見る機会がありました。大変だと思いましたが、後日、プレゼンテーションをさせて欲しいと電話を入れ、考え抜いたことを提出したのが経緯です。 設計をすることになってから、会社をつくってスタートするのですが、いざやり始めたらものすごく大変でした。



Q:手がけるにあたって考えられたことは?

柊家さんのような有名旅館が新館建設となると、どんなものをつくっても最初はいろんな意見がでてくるものです。ですが、好みはあろうとも「いいな」と感じ、馴染んでいく新館にしたいと思いました。。

また、創業1818年より続く旧館には「古くて良いもの」がいっぱいあります。新館では、私は「新しくて良くなりそうなもの」と表現するんですが、旧館と同じ手仕事、自然素材、和の伝統、サービスと同じ物を手供しながらも、「しつらえ」として新しく、これから先、評価される、残りそうなものをやりたいと考えたのです。



Q:「柊家 新館」の設計コンセプトを教えてください。

旅館の場合は滞在時間が18〜20時間と長く、その中で、食べる、お風呂に入る、寝る、眺める、くつろぐ・・・、と様々なシーンがあります。それぞれのシーンが快適で喜びに満ちたものになるように、徹底的に考え抜いています。また旅館には「もてなし・料理・しつらえ」の3要素があると思います。多くのプロがそれぞれの道で力を振るっているわけですが、私が担うのは「しつらえ」にあたります。その他のもてなし・料理のことも考えながら、メインの空間設計だけでなく、家具、照明・・・、些細なことまでを網羅してことができれば、滞在されるお客様にも本当の感動が伝わるのだと思います。
 
設計には、奇をてらったような一過性のものではない、まったく新しい意匠を採り入れているつもりです。他にも、新しい技術や素材も積極的に採り入れていますが、旅館の空間とは「癒し」ということを前提にしていますので、落ち着きをもたらす自然素材の木、紙、漆などを手仕事の力により組み上げることにも力を注いでいます。


Q:それをご出身の京都でやるわけですが・・・

昔から京都の人は建築物に金箔を貼るなど、数えきれないような革新的なことをやっています。ですから200年続く老舗の旅館が21世紀に新しいことをするんだったら、ちょっと本格的に思い切ったことをしましょうかとお話ししたのです。広間が雪吊り構造で浮いていたり、変わった屋根がついていたり、7つのお部屋が全部違うテーマ・内装だったりするのもそういう理由です。
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<大広間外縁 と 雪吊り構造>


Q:ずいぶんと時間を要したそうですね。

実際は全部で5年くらいです。新館建設に1年半、準備工事に3年半でしょうか。 創業から今までに戦争や道路拡幅など敷地形状が変わるようなことが何度もありました。そもそも古い図面がきちんと残ってなく、今の全体図を解析するところから始める必要がありました。また新館建設予定地には、40年前に建てられた客室10室と機械室と厨房がありました。機械室がなくなると、あたたかいお湯も冷暖房も提供できません。厨房がなくなると料理を出すことができませんので、旅館として成り立ちません。ですから、工期の間、営業をしながら工事をやることが大前提でした。

そこで敷地の一角の駐車場にプレハブを建て、厨房や機械室を移築しました。そこから古い建物へ料理の提供ができるようにし、機械設備などを新たに準備しました。また、京都に数多くあるお祭りや春秋のシーズンを回避しながら工程を組み、お客さんの入りを気にしながら準備工事を進めました。そして、解体して更地にしてから、残った旧館を行政と話をしながら補修を終え、ようやく新館着工となりました。




 
外観 模型


瓦の屋根の上に瓦の屋根が2階まで連続し、金属の屋根がぐるりと上へと回り消えていくデザイン。古いものから新しいものへと歴史・伝統が引き継がれることを表現している。
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Q:手仕事などはどのように進めていくのでしょうか。

柊家さんと元々縁のあった人間国宝の方をはじめ、自分で探して来た様々な職人さんとコラボレーションしています。その時、大切なポイントを私は「7割発注」と呼んでいます。職人さんに対して10割全部を指示してやってくださいと言うのではなく、7割方にしておくのです。目標に至る大事な方向性だけを明示し、余白の部分を残しておくというのでしょうか。目標までは距離ではなく方向性が重要です。まず通常なら説明しない考え方や、なぜこれを作るかという意図を理解してもらいます。一旦、方向性がわかると職人さんというのは、豊富な経験と技術を持っていますから、最終的な仕上がり等は私の予想を超えた、つまり10割以上の仕上がりとして出来上がってくることが多いのです。これは私にとっても、職人さんにとっても大きな喜びです。

 
200704tokoita003.jpg 神代杉・木画作品の床板
制作者:中川清司  重要無形文化財認定・木工芸

神代杉という貴重な埋もれ木の柾目を贅沢に使用し、「柾合わせ」という独自の手法で組み上げていく総無垢の床板。No.52の客室で見られる。



 

Q:完成した時の感想を教えてください。

それが開放感とか、達成感というものはなかったんです。私が当初から念頭に置いていたのは、工事が竣工したら終わりという事ではなく、宿側の使ってみてからの感想や手直し、そうして泊まられたお客さんの感想が良かってこそ、初めて一区切りついたのだと言えるのだと思うからです。幾ら新館といえども、旧館と同じようにメンテナンスは必要ですし、そういう意味では緊張感は無くならないのかもしれません。
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Q:最後に、今後のビジョンを教えてください。

偉そうなことを言うと、この先も残るようなものを創りたいと思っています。考え抜き、設計し監理したものが、死んだ後も多くの人に愛されるものとして残したいのです。ただ、柊家新館でも、今やっている仕事のいくつかもそうですけど、自分がやりたいと思って来た仕事ではないんです。たまたまキッカケがあったわけです。ですから、アバウトであまり目標を立ててないところもあります(笑)

ただし、何かやりたい、いいものをつくりたい、といったことはいつも考えています。いつも星空を眺めてたら流れ星が見えてそれを掴んだような、縁に恵まれたわけです。ですから信頼してくれる施主や協力してくれる仲間などに対して後ろめたいことをしない、日があたっているところを堂々と歩きたい、このスタイルを崩さずにやっていきたいと思っています。



 

「GOODS」 ― 伝統 MEETS モダン



道田 淳さんがデザイン・設計した漆器の「宴皿」。
片手でフードとドリンクを持つことができ、立ったまま飲食とともに話を咲かせるパーティーでのシーンや用途を考えてのもの。
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